前立腺肥大症のお薬について

前立腺肥大症のお薬 まとめ

診察する医師

かつては前立腺肥大症は前立腺を切除する手術が主流でしたが、現在では薬による治療が主流を占めています。

前立腺肥大症のお薬を分類すると、下記のような5つのタイプが存在します。

それぞれのタイプの類似や相違、最近の動向など非常に興味深いお薬ではないかと思います。

前立腺肥大症のお薬 分類

α1受容体遮断薬
(α1ブロッカー)

尿道や前立腺平滑筋に存在するα1受容体を遮断してを弛緩させることで、尿道抵抗を低下させ尿を出やすくさせます。

副作用としては、血圧低下に伴うめまい、ふらつきがあります。

お薬の例:( )内は有効成分

  • ユリーフ錠(シロドシン:最も強い選択的遮断作用)
  • ハルナール錠(塩酸タムスロシン)
  • フリバス錠(ナフトピジル:蓄尿改善効果)
PED5(ホスホジエステラーゼ5)
阻害剤

尿道や前立腺の平滑筋細胞に存在するホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害することにより、局所のcGMP(情報伝達物質の一種)の分解を阻害し平滑筋を弛緩させ、血管を拡張することより血流及び酸素供給が増加し、前立腺肥大症に伴う排尿障害の症状を緩和させます。

前立腺肥大治療薬の中では最も新しいお薬で、頻尿、尿意切迫感などにも有効と報告されています。

ニトログリセリン製剤との併用は禁忌とされています。

お薬の例:( )内は有効成分

  • ザルティア(タダラフィル)

有効成分タダラフィルの起源は、今でもED治療薬の第1選択薬である「シリウス」への採用でした。

5α還元酵素阻害薬

5α-還元酵素を阻害すると血中テストステロンを低下させずに前立腺そのものを縮小させます

テストステロン(男性ホルモン)を前立腺組織内でDHT(活性型男性ホルモン)に変換する酵素を阻害することにより、前立腺を縮小させ排尿症状を改善させます。

α1ブロッカーよりも効果の発現に時間がかかりますが、比較的大きな前立腺肥大症に有効です。

副作用として勃起力が低下することがあります。

お薬の例:( )内は有効成分

  • アボルブ(デュタステリド)
抗アンドロゲン剤

合成黄体ホルモンの一種でテストステロンやジヒドロテストステロンといったアンドロゲン(男性ホルモン)の働きを妨げることにより前立腺を縮小する効果があります。

作用機序としてはアボルブと似ていますが、副作用として勃起不全(ED)のリスクはアボルブより大きいと言われています。

耐糖能低下を起こすことから糖尿病のある方は要注意です。

お薬の例:( )内は有効成分

  • プロスタール錠(酢酸クロルマジノン):効果・効能として前立腺癌も謳われています
  • プロスタールL錠(酢酸クロルマジノン):効果・効能として前立腺癌は謳われていません
  • プロスタット錠(酢酸クロルマジノン)
植物製剤(生薬・漢方薬)

植物製剤の持つ抗酸化作用、抗炎症作用によって、前立腺肥大症に伴う炎症を和らげ排尿症状改善効果を示します。

効き目は緩やかな代りに、副作用は小さいと言われています。

お薬の例

  • セルニルトン錠
  • エビプロスタット配合錠DB
  • 八味地黄丸(はちみじおうがん)エキス
  • 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

前立腺肥大症のお薬 最近の動向

現在でも基本的に軽度な場合にはα1受容体遮断薬が第1選択薬だと考えられますが、最近では、5α還元酵素阻害薬のアボルブかPED5阻害剤のザルティアが第一選択薬になることも多いように見受けられます。

実際、私の場合も、人間ドックでの検査結果にてPSマーカ値が高いということで受診した泌尿器科(以降かかりつけ医)ではアボルブを処方され、生検を紹介された県立病院ではザルティアを処方されました。

これは、肥大度合いが大きい場合や自覚症状が強くなっている段階になると、α1受容体遮断薬を継続しても、反って症状の悪化や排尿障害の憎悪を認める場合も確認されて来たことによって、薬を切り替える必要性のあるケースが顕在化してきたとも受け取れます。

また、初診のタイミングで、すでに軽度とはいえないケースにおいても、2009年以降にはアボルブ、2014年以降にはさらにザルティアという選択肢が増えたことによると考えられます。

このようなケースにおいては、かつてはプロスタール錠が第1選択薬として活躍していたわけですが、最近は何故か使われる機会が減っているようです。

その理由については、私がネットで相談した高橋先生が明快に一刀両断されていますので、後述させていただきます。

さて、タイプ全体としての割合は不明ですが、先発薬だけで見た2021年現在では、

  1. 5α還元酵素阻害薬=アボルブ
  2. PED5(ホスホジエステラーゼ5)阻害剤=ザルティア
  3. 植物製剤=セルニルトン錠
  4. α1受容体遮断薬=ユリーフ錠
  5. α1受容体遮断薬=ハルナール錠

の順に多く選択されているというデータが医療業界のメディアによって示されています。

プロスタール錠 処方件数減少の背景

私は、忙しさにかまけて何も知識の収集と思考をすることないままに県立病院で前立腺の針生検を安易に予約してしまった後に、やはり不安になり、受けるべきかどうかをネットで相談した高橋先生は、「針生検を受ける段階には非ず。プロスタールを処方してもらって肥大を改善しながら様子を見よ」でした。

PSA値を巡る私の経験の経緯の要約は、次項「前立腺肥大症と前立腺がんの判別について残念なこと」をご一読ください。

さて、今ではあまり処方されることが少なくなったプロスタールを高橋先生は、私の事例でなぜアドバイスされたのでしょうか?

以下の引用でお分かりいただけると思いますし、処方件数のシェアが大きいものが必ずしも最適なチョイスだとは言えないことを示唆する良い例ではないでしょうか?

プロスタールが、前立腺肥大症の治療薬としてファースト・チョイスとして処方されていた時代は、これほど多くの前立腺ガン患者さんはいませんでした。

なぜなら、プロスタールが高分化型や中分化型の前立腺ガンを死滅させていたからなのです。

ところが、前立腺肥大症の排尿障害を効果的に治すハルナールの出現でプロスタールが使われなくなりました。

さらに、プロスタールなどの抗男性ホルモン剤がPSA値を下げてしまい、前立腺ガンの発見が遅れてしまうからという文献が過大評価されたからです。

プロスタールの売上げの減少に反比例して前立腺ガンが増加する印象でした。

研究者たちのバカな思い込みが作った、これが前立腺ガン患者さん増加現象の本質かも知れません。

高橋先生のブログより

医師の能力や考え方にもよりますから、こういった統計データは、あくまで参考とし、何がベストかは患者自身の知識と直感で判断して行くことが必要です。

その際に参考になることとして、

  • α1受容体遮断薬が利かなくなった場合や悪化した場合には、5α-還元酵素阻害薬(アボルブ)を併用することで、悪化・憎悪のリスクが減少すること
  • α1受容体遮断薬とPED5阻害剤との併用については、まだ十分な研究が行われていないため避けた方がいこと
  • 自分で判断して「プロスタール」が適していると考えれば医師に相談、依頼することもできること

を念頭に置かれては如何でしょうか?

前立腺肥大症と前立腺がんの判別について残念なこと

前立腺肥大症と診断されるケースには、

  • 排尿障害や外観目視から自らの判断で受診されて判明した場合
  • 血液検査によって、前立腺がんのマーカであるPSA(血清前立腺特異抗原)値が高いことで受診して判明した場合

と、大きく2つに分類されます。

厄介なことは、前立腺がんの疑いとセットで扱われる点にあります。

もちろん医療としては当然の方向性なのですが、PSA値だけから、むやみに針生検に進むことが良いことなのか悪いことなのかという問題があります。

当事務所代表者のケースがまさにそうでした。

PSAマーカの検査をされた場合、前立腺肥大症の場合は必ずPSA値が高いですから、多くは「前立腺がん」検査のための生検をすすめられると思います。

しかし、単に前立腺肥大症だけによってPSA値が高くなっているとすれば、結果的に針生検をすることは、反って「前立腺がん」の引き金になってしまう可能性があることを提唱しておられる医師がおられます。

当事務所代表者が、その医師に相談した上で取った道による経験上から言えることは、PSA値による生検の検査必要性が必要以上に低く設定されているのではないか?との思いが疑念としてあるということです。

その経緯を簡単に要約しておきますと、

  • 人間ドックの検査結果でPSA値が約23あることが分かった(正常値は4以下)ことで、泌尿器科を受診。
  • 直ちに、最寄りでは評価の高い県立病院を紹介され受診し、お決まりの生検を予約した後、どうにも腑に堕ちずにネットで調査したところ、上述のある一人の医師さんサイトで相談をすると、生検までするのは時期尚早との判断をいただき、自己責任において予約をキャンセル。
  • 元の地元の個人医に「紹介していただいたのにすみません」とお詫びを入れて、以来、毎月通院し、4か月に1度程度のローテーションで尿の勢い検査&超音波検査と血液検査を入れながら、アボルブで治療。
  • 一度だけ僅かに逆行したことはありましたが、23→16→13→12→15→11→8と今や1ケタ台にまで下がりました。
  • 相談した医師の理論・経験をサイトで確認した上で、数値の大部分は前立腺肥大症によるものと結論し、前立腺がんの可能性はないと自己判断
  • アボルブを個人輸入することでのみの治療に切替(新型コロナで通院するデメリットも考慮)

この興味深いお話の詳細は、下記のページをご参照ください。

医師は、何か不都合があれば重い責任を問われるので、どうしても既成の無難なパターンに持ち込んでしまう習性があるということも感じる現象ですが、社会によって知恵を授けられた変にモンスターな患者が増えていることもあって、医師が自己防衛に走るのも致し方のないことではないかと思います。

ここで、本来的に無能な医師と本来的には有能な医師の区別もつけにくくなっているように感じますね。

とは言っても、前立腺がんの可能性が消え去らない場合には、「前立腺がん」の見極めのためにも、血液検査による前立腺がんのマーカであるPSA(血清前立腺特異抗原)値を定期的に検査受診されることが必要であることは申し上げておかねばなりません。

知識と感性を磨いて賢い判断をする