体臭への最低限のマナーと情報の罠
臭いに過鈍感?どうしたもんじゃろのう
1年ほど前のことですが、身近で体臭が酷い人に関する話題を耳にしました。
夏場における職場での話ですが、ある女性は服も髪もベトベトになっているほどに半端ない汗で出勤されるそうで、汗だけならまだしも、その臭いに周囲が辟易としているというお話です。
大人の世界ですから、汗をかいているだけで誰も非難することはないのですが、問題は、信じられないことに、当の本人が少なくとも汗をこまめに拭くとか、洋服や下着を換えるとかの処置を何もされないところにあったのです。
普通は、自分自身が気持ち悪いから自然にそういったアクションに出ると思うのですが、世の中本当にいろんな人が居るのですね。
同僚たちは、口パクや目配せによって「臭いよぅ!」ということを無言で伝え合うわけです。
小学生や中学生ならいじめの対象になってしまうかもしれませんね。
体から排出されるものは自然の摂理ですから仕方がないことですし、個人差もありますから多汗症の方も当然おられます。
私なんかも、二十歳代のある夏の日に突然に、太陽光で上半身に水ぶくれが出来てしまって以降、体質が突如として多汗症になってしまいました。
我が身のことと思わずとも何ともやるせないお話なのですが、自分の周囲でそのようなことがあれば、どうしても憂鬱になってしまいます。
臭いに過敏?どうしたもんじゃろのう
先日、テレビで臭いに過敏な人が増えているという現実とともに、自分の臭いが他人に迷惑を与えているのではないかと思い悩んで受診した人の8割方は特に問題になるレベルではなかったというような医師のお話を放送していました。
「臭い」の話になると、何故かいつも五味常明先生が出て来られますね!(笑)
過敏症の方が増えているらしい現状の背景には、上の実際の話のように過鈍感な方も居られて、スメル・ハラスメントという社会現象を引き起こすことに至った現実というものがあるのでしょうね。
上の例の女性とは、あまりにも対称的なのですが、これは、エチケットというより、それほど「人にどう見られているか」が気になるということのようにも思われます。
ある意味、ネットのSNS社会が反映しているのかもしれませんね。
さて、上の例の女性が五味先生を受診すれば、おそらく約2割の問題ありのレベルか、最悪手術が必要な5%に入るレベルなのかもしれません。
これに関しては、おそらく腋臭や足臭の臭いの原因となっている「ジアセチル」に対する感度が、人によって著しく違うという個人差がもたらす災いと言えるのかもしれません(この説明は、後ほどさせて頂きます)が、たとえ臭いに超鈍感であったとしても、常識的なレベルでエチケットの習慣さえ身に着けていれば、ある程度は防げる問題ではないでしょうか?
身だしなみが整ってきれいでも、臭いがあるだけでコミュニケーションにはマイナス。
人間関係自体がギクシャクしてしまいますね。
ある意味、『臭い』は他の身だしなみと独立で考えなければならないと言えますよね。
ところが、自分自身では臭いに敏感なのか鈍感なのかすら分かりにくいものですから、一般社会や身の回りの話題として「臭い」が一躍脚光を浴びてくると、気になってしまいます。
そういった状況にもかかわらず、全く鈍感なままでいるのも考えものですが、真逆に、必要以上に気にしちゃう人も増えて来たということも個人主義の負の側面に支配された社会の息苦しさを感じてしまいますね。
臭いに過敏であろうが鈍感であろうが…
しかし、人に不愉快な臭いを与えないように、最低限の日常的なケアや汗を酷くかいたときは化粧室に行って拭き取るぐらいの常識的な気配りの気持ちだけは持ちたいものです。
すごく一般的な常識レベルのことで言ってしまえば、
- 毎日お風呂に入り全身をきれいに洗う
(皮膚の清潔保持:1日経過すると無臭も有臭に変化する) - 肌着は通気性の良いものを着用し、毎日取り換える(蒸れないようにする)
- 人前で汗をかけば拭う(エチケット)
- 汗が酷いという自覚があれば着替えを用意しておく(エチケット)
- 野菜を豊富にとる和食中心の食生活を心掛ける(ダイエットと同じ)
このぐらいの心構えはしておきたいものです。
汗や皮脂が雑菌(黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、プロピオニバクテリウムetc)と反応して臭いの原因になるであろうこと、その雑菌が繁殖しないようにすることで臭いは抑えられるであろうことは、今や誰でも周知の智恵なのですから…。
生活に関連する化学や生理学にもジェネラルドクターが必要!
少し、最近に報告された学術的な話を挟んでおきましょうか。
2013年に、マンダム社は次のような研究成果を発表しました。
-
- 30~40歳代のミドル男性における不快な脂っぽいニオイ「ミドル脂臭」の原因成分が、頭部とその周辺から発生する「ジアセチル」であると特定
- カンゾウ、ケイヒなど、数種のフラボノイド含有植物エキスが、皮膚常在細菌の「乳酸代謝」を阻害し、ジアセチルの発生を効果的に抑制すること
- 加齢臭成分である「2-ノネナール」は一般的に「誰でも感知することができるニオイ」であるのに対し、「ジアセチル」に対する感度は個人差が非常に大きく、感度の良い(敏感な)群と悪い(鈍感な)群が存在すること(男女差・年齢差に依存しない)
※加齢臭は、顕在化するのが50歳代以降であり、その原因成分は「2-ノネナール」とされています。
さらに、おそらくこの発表をベースに機序まで解明しようとしたのだと思われますが、理学の博士論文として(立命館大学)次のような報告がありました。
- ジアセチルは汗の中の乳酸が皮膚上の細菌に分解されると発生し、中鎖脂肪酸と混じることでミドル脂臭となる
- 118名の日本人男性の腋臭と足臭の測定によって、表皮に常在する黄色ブドウ球菌・コアグラーゼ陰性ブドウ球菌属(表皮ブドウ球菌)が汗中の主要成分の一つである乳酸を分解・代謝する際に産生するジアセチルが中鎖脂肪酸と混じることが臭いの原因であることを確認
- GGR(カンゾウ抽出物)とEPC-K1(ビタミンE とC のリン酸ジエステル)が高いジアセチル生成抑制能を示すことを見出した。
体臭の原因成分が「ジアセチル」であることは同じですが、前者は「ミドル脂臭」だけの確認、後者では「ミドル脂臭」に限定しない一般的な男性の腋臭と足臭と考えねばなりません。
一般的には、腋臭の原因としては「ヘキサン酸(カプロン酸)」、足臭の原因では「イソ吉草酸」が筆頭の原因として挙げられていますが、後者の博士論文ではそれらとの関係がどうなのかが不明なんですね。
おそらく、科学界でもコンセンサスになっているであろう、
- 表皮に常在する雑菌の種・量・分布は大きく個人差(身体・環境)がある
- 表皮に常在する雑菌の種・量・分布は部位によって異なる
なる事実に加え、様々な外的条件の相違が重なって、雑菌が代謝する生成物及びその比率が変わって来るということは容易に想像されます。
ですから、臭いが深刻である人では、腋には「ヘキサン酸(カプロン酸)」、足には「イソ吉草酸」を多く発生するけれども、受診に来る人のうち8割方は特に深刻な問題ではないということを鑑みると、後者の論文の被験者118名はいずれもそのクラスの人であり、その場合には「ジアセチル」産生が主流であったと解釈すればいいのでしょうか?
その辺りの生活レベルでの素朴な疑問が湧いてきますから、全体の枠組みからそれぞれの成果をインターフェイスしてくれるような存在、すなわちジェネラル・ドクターが居て欲しいものです。
いずれにしても、体臭の強い人は、「ヘキサン酸(カプロン酸)」や「イソ吉草酸」やちょっとくせ者の「ジアセチル」を出来る限り発生させないようにするということが一つの大きな課題であることは間違いがなさそうです。
結局は雑菌を繁殖させないようにすること
そして、どんな原因物質であれ、臭いを発生させる条件は下記の3つの条件が揃うことであることは共通しています。
- 常在菌・・・黄色ブドウ球菌・表皮ブドウ球菌・皮膚糸状菌(カビ菌)etc
- 常在菌の餌となる栄養・・・汗や皮脂、荒れた皮膚から滲出する体液etc
- 常在菌の活性化のための水分または湿度
となると、元を改善する対策としての最大公約数は自ずと明らかになって来ます。
結論は、常在菌を増殖させないようにするということで、そのためには、
- 湧き出る汗や皮脂はこまめに拭い、毎日お風呂で洗って清潔にする
(1日以上放置しない) - 各部位においては湿気のある状態を避け、乾燥した状態に保つ
といった当たり前のことになってしまい怒られるかもしれませんね。
ただ、当たり前のケアを心掛けていても、臭いに問題のない方ですら、全く臭いを発していないという訳ではないことは言うまでもありません。
本来、汗は無臭ですが、雑菌を持っていない人などは居ないのですから…。
また、体質的にどうしても臭いが強くなりがちな方は居られるわけで、どうしても発生してしまう臭いを少しでも軽減するためにデオドラント製品があるわけですね。
ただ、発生してしまう臭いは、ここまでのお話からも種々多様であることは想像できますから、完璧なデオドラント製品もなかなか見つからないのも当然です。
仮に、ジアセチル(アルカリ性)の臭いが強かったとして、EPC-K1(酸性)を成分として含む製品を塗布すれば、ジアセチルの産生を抑制してくれるは、臭いをも中和してくれるわで効果が出る筈ですが、もし、ヘキサン酸(カプロン酸)の臭いが強かったのだとすれば、効果が出るものでしょうか?
EPC-K1がヘキサン酸(カプロン酸)の産生を抑制してくれるのかどうかは分かりませんし、酸性ですから臭いを中和してくれることもなさそうですね。
ただ、酸性であることは雑菌に対する抗菌力を持ちますから、常在菌を増殖させないという意味では効果があるかもしれません。
ということは、ある意味デオドラントは、試行錯誤しながら自分に適したものを探すしかないというのが本当のところになるかと思います。
真摯な科学者がアドバイスするとすれば、結局当たり前のようなこと、アバウトなことしかアドバイスができないのは、まだまだ分かっていないことが多過ぎるからということに他なりません。
情報の罠~故意・過失・拡散・金儲け
そうなると、可能性の高い順に試していくのが人の常ですから、やはり母数が多くて、しかも評価の高い製品から試していくことがベストでしょうし、腋臭だとか足臭だとか目的が明確な場合は、分かっている範囲での理論から成分を仮定して最適の製品をチョイスするかの何れかになると思います。
と言っても、前者の場合は、決して素人が書いたランキングだとかの記事は参考にされない方が賢明です。
科学的な装いを纏ってはいても、ほとんどはネット情報や販売者の説明文をリライトして、自分が売りたい順位に並べているだけですから…。
理系の素養のある人でも、特に生理学や化学分野の話ともなれば、そんなに安易に断定的には記事を書けるものではなく、私の友人の合成化学研究者は「よくもまぁ、あれだけ断定的に編集できるものだ」と呆れ返っていました。
要は、知識の有無ではなく、知識に向き合う姿勢が全く違うということです。
哀しいかな、個人ブログのほとんどは、化学もまともに勉強したことのないような小遣い稼ぎのための作文屋さんで、本当に役に立つ情報を記事にされているのは、ほんの2~3%の方(おそらく専門にされているか理系姿勢を持った方)しかないというのが偽らざる実感です。
例えば、上のような論文を見れば、【ミドル脂臭→原因:ジアセチル→抑制:EPC-K1】でECP-K1を成分としたデオドラントを探さなければなりません。
となれば、常盤薬品(ノエビア・グループ)の『セルニュー デオドラントクリーム』しか見受けられません。
ところが、この製品は一時期、一般市場で販売されていた節がありますが、完全に医療機関の専売製品になっていました。
すなわち、不本意にネット一般市場に流れ出てしまったために、メーカが流出を規制する防御線を鉄壁に張ったということだと思われます。
amazonでは「この商品の再入荷予定は立っておりません」となっているのは、こういった事情であることが分かります。
こうなれば、誰も記事にしないどころか、そんな真実志向は端から持ち合わせていませんから、お金になる順にランキングを付けているわけです。
その他、一般的な常識レベルのことでは次のようなことが言われます。
- バランスの取れた食生活
- 規則的な生活
- ストレスをためない生活
こうやって見つめてみれば、
何のことはないダイエットと全く同じことに注意することとも言えますね。
動物性たんぱく質や脂肪は臭いの元にもなりますから、緑黄色野菜を豊富に採るとともに、栄養バランスのよく取れた食事を心がけるべきですね。
できれば、和食中心の食生活にすることが体臭にとっても効果的と言われていますが、ある意味「血液をサラサラにすること」と関連付けられるのではないかと考えます。
これも、特に明確に根拠が示されているわけではないようですが、医療の世界でも暗黙の了解として承認されているように見受けられます。
そもそも汗自体が血液中の水分なのですから、水分だけとはいかず排出したいものを一緒に出してしまうということは考えられるわけで、そういう意味で血液の健康度が体臭にも影響を及ぼしているであろうことは間違いないのではないかと推定するばかりです。
また、体臭対策に限りませんが、健康増進や体質改善のために玄米食が巷ではよく勧められているようです。
確かに、血圧降下や血糖値降下、コレステロールの排出促進などの効能はあるようですが、アブシシン酸(発芽抑制・細胞活性抑制)及びフィチン酸塩(ミネラル吸収抑制)という2つの成分に関して毒性があるという説があることは、あまり語られません。
逆に、アメリカ合衆国・国立科学研究所の論文によるとして「アブシシン酸は毒である」といった記事が個人ブログで蔓延したりしていますが、これも実際問題、以下の理由で非常にいい加減と判断せざるを得ません。
- アメリカ合衆国・国立科学研究所なる機関は存在せず、この論文は『米国科学アカデミー紀要』で発表された「アブシシン酸は、二次メッセンジャーとしての環状ADP-リボースを有するヒト顆粒球における内因性サイトカインである」という論文
- その論文には、毒などと結論付けている箇所は存在しない
アブシシン酸は、二次メッセンジャーとしての環状ADP-リボースを有するヒト顆粒球における内因性サイトカインである『米国科学アカデミー紀要』
どうやら、健康増進を目的とするNPO法人さんが、トンデモ学者だとされている安保徹教授ですら『アブシジン酸、毒素の低排泄機能者に生理障害』と評価したこの論文を、勝手に条件なしで『毒素』という言葉で括ってしまったのが拡散したのではないかと思われます。
健康増進活動はもちろん良いことなのですが、科学的解明の途上にあるものを、勝手に歪曲した解釈で、短絡的な神話を作ってしまうことは褒められたものではありません。
「国立科学研究所」などと勝手に命名して、公の信頼性を読者に印象付けるのも非常に性質が悪いですね。
確かに、玄米食が良さそうだといって、白米と同じように調理して毎日毎日食べていると、何だか生きる元気がなくなって来ちゃった、ミネラル不足で貧血やめまい、調子がイマイチなんてことやも起こり得るかもしれませんけれども、科学的な推敲なしに表面的な言葉だけで短絡したり、組織名を誤訳しているようでは反って有害な情報となってしまいます。
この問題に関して書いていてはキリがありませんので別の機会に記そうと思いますので、とりあえずは「玄米を1昼夜程度浸漬すことで、ある程度発芽した段階ですぐに炊飯することで、いずれのリスクも回避できる」というところまでは言えそうだとだけここでは記しておくことにします。
一面的な美辞麗句をそのまま信じているだけでは、思わぬ逆の結果が出てしまうことがありますから、信頼できる情報を精査しトータルで判断する力を持つことが大切ですね。
最後に、規則的な生活ですが、これは健康であるためには、今さら言うまでもない当たり前のことですね。
アルコールの摂り過ぎや、睡眠不足、不規則な生活をしていると、ストレスがたまり、皮脂腺が過剰に分泌され、酸化し、臭いの原因になるそうです。
しかし、人付き合いもあり、食生活や生活環境が不規則になりやすいので、原因をすべてなくす事は難しいです。
とにかく、心掛けるしかありません。
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