ラプラスの悪魔の肖像

2000.10.28著

ラプラスの悪魔の肖像

さて、3勝3敗で迎えた日本シリーズも大詰め。
最終戦も4対3で最終回2アウトランナー1塁。
栄光の日本一まで守る読売巨人軍あと一人!

マウンドには、千両役者、「8時半の男」宮田が仁王立ち。

しかし一方、ホークスも1発出れば逆転サヨナラでの日本一というドラマティックなシーンを迎えています。

1塁には、ホークス抑えの切り札、今年東京メッツからドラフトで移籍して0勝3敗11セーブと優勝に大きく貢献してきた抑えの切り札、左腕水原勇気がランナーとして出ています。

迎えるバッターは景浦。
今日も少々酔っ払い気味ですが、不気味な雰囲気を引っさげての登場です。
さあ皆さん、これから起こるシーンをじっくりお楽しみ下さい。

まず、1球目はさすがの宮田も緊張のため、ニューロン(神経細胞)のシナプスにおいてグルタミン酸が大量にNMDAレセプタに伝達されることになり、これが右中指と右肩に伝達される力に関する情報を通常目標値以上の大きな値にするという結果を誘発し、インコーナー低め、打者の足許に当たらんかのようなワンバウンドの大きく外れたカーブが投げられるはずです。

捕手森がかけよって”楽に!楽に!力を抜け”という指示を宮田に与えます。
これはグルタミン酸の量を抑えることになりましたが、かえって意識過剰の反動をもたらし、適度の緊張感が保てない状態で2球目を投じることになります。

一方、景浦はほろ酔い気分のため、1球目は、これをよけるのが精一杯でしたが、この1球が脳の海馬のFyn酵素の活動を異常に活発化させ、結果、酔いで機能が低下していたNMDAレセプタが適度に回復することにります。

宮田が投じた2球目は、速度、方向とも打者にとっておあつらえ向きの球となり、景浦はものの見事にバックスクリーンへホームランをたたき込むことになるはずです。
ついに、ホークス栄光の日本一になることが既に決まっております。


「なんじゃ、こりゃ!」と思われたのではないでしょうか?
とにかく、こんな実況(?)などされたら、野球を観戦すること自体興ざめになっちゃいますよね。

この実況をした、いやいや正確には、おせっかいにも結果を先取りして流しちゃった”ラプラスの悪魔”とは何者や?
ということをお分かり頂きたかったというわけなんです。

理工科に縁のある方はほぼ常識としてご存知のことかとは思いますが、そうでない方には耳慣れない名前ですよね。

簡潔に言っちゃえば、上の例のように、実況ではなく予測することを至上の喜びとしている御仁が即ち”ラプラスの悪魔”なのです。

彼は、全てのことを因果関係から確定した未来として導き出すことの出来る理念上の天才生物だと言うわけです。

産みの親は、ラプラス方程式、制御系で利用されるラプラス変換、そして、ラプラシアンで有名なラプラス(Pierre-Simon Laplace)というフランスの数学者です。

詰まるところ、彼はそう言ってはばからない存在なのです。
言い換えれば、【全てのものの運命は決まっている=決定論】ということができます。


マガジンの読者の中のGさん、あなたは今日の夜サンマを食べますね。
私には分かっているのです!
あなたの身体を構成する全ての原子の動きによって、あなたは今晩サンマを食べることに確定しているのです。

そして、サンマを食べた結果が、今度は原因となってあなたの身体はお茶を何杯欲し、何杯飲むかということまでも私には分かっているのです。
全ては物質のなせる因果関係から確定しているのですから・・・。
全てのことには因果関係がある。その因果さえ突き詰めれば分からないことはないのです!

Gさん、あなたの今晩の夕食がサンマであるということは、遡れば、地球創造、ビッグバンの時から決まっている当然の結果なのですよ!

なにを阿呆なことを言ってるのやと思われた方も多かろうと思います。
しかし、これはずっと私たちがその礎にしてきたことでもあるのだということも事実なのです。

私たちが習ってきたニュートンやそれを覆した相対性原理のアインシュタインですら、”ラプラスの悪魔”の信奉者だったのです。
所謂”古典物理学”と言われているものに多大な貢献をしてきた偉大な科学者たちです。

話を分かりやすくする為にもう少し話を進めましょう。

これを読まれたGさん、あなたは今晩サンマを食べる筈だと断言されたことによって、ケッタクソ悪いので意地でも今晩はサンマは食べるまいと決断されたかもしれませんね!
私ならそうします。意地でもね・・。

しかし、”ラプラスの悪魔”は強がってこう反論します。
「あんたがそう思うことも、因果関係で全てお見通しなんだよー!それでも、結局最終的にサンマを食べることになる!」と・・。

しかし、運命など認めたくもない方ご安心下さい。
そうです、少々ニュアンスを変えますと、”ラプラスの悪魔”からデータを採取されていることを知ってしまったたあなたは、少なくとも本当のあなたではなくなっているはずです。

先ず、身構えていることは確かでしょう。
ラプラスの悪魔は本当のあなたを知ることが出来ないわけです。
採取したデータは本当のあなたのデータではありません。

身構えたことによって、体内物質的にも変化がもたらされたあなたの擬似データであって純粋データではないのです。

”ラプラスの悪魔”はあなたを正確に把握することが出来ないので、正確にあなたの未来を予測することは出来ません。

これが、”ラプラスの悪魔”を死に追いやった”不確定性原理”という理論の正体そのもののイメージでもあるわけなんです。

この理論を打ち立てたのは、ドイツの帝王ハイゼンベルグその人であります。

もちろん理論はこんなに簡単な話では記述し切れませんのは言うまでもないことです。

BSデジタル放送での電波の話から、電磁波の身体に及ぼす影響とかの話題を取り上げてきた中で、やはり電磁波と来れば、不確定性原理発祥の源流に近い範疇ですので取り上げさせて頂きました。

※次のように主張していた、”ラプラスの悪魔”

あるものは、現在位置と現在の速度さえ分かれば未来永劫に渡り、そのものがどんな動きをするかは予測することが出来るのです。
理想状態(真空中)では至って簡単なことです。
真空中でなくても、空気抵抗、摩擦抵抗などを計算式に入れてやりゃ解決!

人間とて、もとは物質、原子から出来上がっているから同じことです。
精神作用も体内での電子やイオンのやり取りの結果でしかありません。
私たちの現在は過去の因果の当然の帰結としての現在なのです。
従って、私たちの未来も現在の状態の因果としてただ一通りに確定しているのです。

※これに対し、ハイゼンベルグはこう主張します。

早い話が、私たちは体温を測るとき、体温計を脇に入れますね。
そうすると、2つの物体が接したとき、熱は必ず高い方から低い方へ移動するというまぎれもない自然のきまりがあるわけですから、体温計を入れることそのこと自体によって体温は下がるわけです。

実際に私たちが測っているのは、熱が移動して平衡を保ったときの温度であって、計ろうとした瞬間の本当の体温(純粋体温)ではありません。

現在の状態を正確に計測することは不可能なのです。
もちろん、私たちは体温を測るのに、この微々たる熱の移動による体温の降下などは問題にする必要性が現実には無いので無視しているというだけの話なのです。

正確に計測できない以上、私たち人間から見て物質の因果関係は不確定にしか表せないのです。

これが、不確定性原理の基礎をなす全てです。

物理学に準じて、ポイントを要約すると、

  1. 私たちは、物の理を見極める為に計測する。
  2. しかし、その計測する行為自体がすでに物に影響を及ぼす。
  3. 従って、本当の物の姿は不確かなものでしかない。

ということになります。

ニュートンにしてもアインシュタインにしても、人間以外の物を対岸から見つめるという第三者的立場でその理を打ち立ててきたのですが、これは正確には正しくありません。

人間をも、ものの当事者としてひっくるめて考える必要性があるのです。
そして、単にこのことだけによって、世界はガラッと変わってくる!
因果律は確固たる物ではなく単なる確率の世界として捉えなければ説明がつかなくなるのです。

これが、現代物理と呼ばれる定義であり、古典物理と併せて時間的な新旧だけを表す言葉ではないのです。

さて、この”ラプラスの悪魔”、今日彼が豪語した「全ては因果律により一意的に決定される。そして、これを予測することは簡単なことなのだ」という確信を覆されることをも予測していたかどうかは定かではありません。

私たちは物に影響を及ぼすことが出来るのです。
影響を及ぼすことによって、因果関係を変えていくことが出来るのです。

【私たちは不確定だからこそ生きる意味が見出せる】と言い換えることが出来るわけですね。

暗転

”ラプラスの悪魔”が声を殺して笑っている。


2012年、我が家にやって来た柴犬に【ラプラス号】と名付けた!

ハイゼンベルグの【不確定性原理】は科学万能主義に引導を渡したと言える歴史的な理論でした。
そのハイゼンベルグの理論も、本年度(2012年)初頭には、名古屋大学の小澤正直博士の理論がウィーン工科大の長谷川祐司准教授らの実験で実証され、測定の不確定度をより小さくすることが出来ることが証明されたというニュースが流れました。

【不確定】であること自体は覆されないが、本当にそうなのかどうか?
【不確定】自体の中に、何かの法則が存在するのではないだろうか?
”ラプラスの悪魔”にどこかで未練を断ち切れずに居る僕なんかは、そんなことも妄想したりする。

その他に、ゲーデルの【不完全性定理】、アロウの【不可能性定理】と併せて、これら3つの限界性というものを理解出来たとすれば、ただそれだけで「生まれてきてよかった」と思えるような気がする。

この3つの【限界性】のアウトラインを掴まれるには、『理性の限界~不可能性・不確定性・不完全性~』という書籍が、実に分かりやすくしかも面白く架空の人物たちの討論形式で書かれているのでお勧めしておきますね。

理性の限界~不可能性・不確定性・不完全性~

理性の限界~不可能性・不確定性・不完全性~

理性の限界~不可能性・不確定性・不完全性~

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高橋昌一郎
講談社現代新書

おすすめ度:

[評価;4]おもしろい!もうちょっと易しければ。。。
[評価;5]「アロウの不可能性定理」「ハイゼンベルグの不確定性原理」「ゲーデルの不完全性定理」を仮想ディベートでかわりやすく解説した本
[評価;3]ディベート形式で一般人にもかかわる話題にもふれている

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アロウ、ハイゼンベルク、ゲーデルらの思索を平易に解説しつつ、人類が到達した「選択」「科学」「知識」の限界論の核心へ。 知的刺激にみちた、「理性の限界」をめぐる論理学ディベート。


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