ヒアルロン酸と化粧品~その効果と未来~
ヒアルロン酸(Hyaluronic Acid)は、グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンの二糖単位が直鎖状に多数(数鎖~1万鎖以上)連結した多糖構造を持つ生体高分子です。
ヒアルロン酸は、私たちの体内において合成され、皮膚、関節液、眼の硝子体、卵子の周囲、脳などの細胞外マトリックスに広く存在します。
中でも皮膚は、体中ヒアルロン酸の約50%を占めるのです。
加齢に伴う体内ヒアルロン酸の減少
主に脊椎動物のみが体内で産生する物質ですが、私たち人間では加齢に伴い著しく減少していくことが分かっています。
ヒアルロン酸は極めて保水力が高く、1gのヒアルロン酸分子が6lの保水力を備えていると言われています。
それ故、ヒアルロン酸は私たちの体の水分維持に大きく貢献しているものと言えますね。
さて、本ページ作成の契機となったのは、合同会社ポイエーシス 浅利 晃 博士よりの1通のメールだったのですが、博士の論文要旨をいきなり読まれても難しいと思いますので、同じグライコ・フォーラム(Glyco Forum)に、僕たちがヒアルロン酸をイメージとして理解するには分かりやすい資料がありましたので下記にご紹介しておきます。
また、皮膚に関する基本知識を見渡しておかれたい場合は下記をご参照ください。
さて、上述したように、ヒアルロン酸は皮膚に最も多く含まれています。
皮膚は、上皮細胞(5層より成る)から成る薄い表皮と、主に線芽細胞と密な結合組織から成る厚い真皮の2つの異なる層で形成されています。
ヒアルロン酸は線芽細胞や結合組織空間を埋める充填物として皮膚の真皮に多く存在しますが、細胞密度の高い表皮にも存在し、外界からの物理的衝撃の緩和や水分保持の役割を担います。
従って、濃度から見ると、表皮の方が1桁高い濃度になると言えそうですね。
加齢に伴い皮膚がカサカサしてくるのは、このように保湿の役割を担っているヒアルロン酸が代謝の後退によって減少してくることによります。
注目すべきは、表皮のヒアルロン酸は分子量が小さく、真皮のヒアルロン酸は分子量が大きいということです。
ヒアルロン酸が欲し~い!
しかし、最初にご紹介したように、ヒアルロン酸は多糖構造を持ちますので、極めて高分子=巨大分子なんですね。
すなわち、なかなか体の中に入れることが難しいのは僕のような素人でも想像できるわけです。
だって、表皮は真皮と違って、角質細胞にしろ顆粒細胞にしろビッチリ詰まっているんですから…。
基底細胞を突破するなんて至難のワザと普通に思えますよね。
ですから、化粧品などのように経皮摂取する場合では、できるだけ低分子(プツ切り)にしなければ浸透しないことになります。
が、ヒアルロン酸を真皮に届くほどプツ切りにして一体何の意味があるのかと疑問が湧きます。
プツ切りになったものが真皮に到達すれば、都合よく再び手を繋いで連結してくれるのでしょうか?
このことに関して、先般、合同会社ポイエーシス 浅利 晃 博士より、「あるサイズのヒアルロン酸オリゴ糖は、皮膚真皮まで浸透し、表皮および真皮における高分子ヒアルロン酸の産生を誘導する」ということが判明したというお知らせをいただきました。
「生物」大嫌いで勉強しなかった僕ですが、文章だけからある程度の分別はつきます。
俗に言われる「低分子化して真皮に浸透させる」ではなく、「高分子ヒアルロン酸の産生を誘導する」とあります。
やはり、実際の研究者の言葉は、はるかに科学的な土俵に乗った表現だと思っただけではありますが・・。(実際に、そうなのかは、知識が体系化できていない僕にはまだ判断がつきません。)
この研究の概要をご紹介する前に、ヒアルロン酸の経口摂取商品、すなわち「飲むヒアルロン酸」を謳う商品が溢れていますので、経口摂取について俯瞰してみましょう。
「体内でヒアルロン酸に変化する」なる商品もあるようですが、単純に考えると、「そんな魔法のようなことができるのか?」という疑問が湧きます。
結局、普通に栄養として摂取した糖質と同じように消化・吸収されてグルコースとして取り込まれ、ヒアルロン酸の材料になるんじゃないの?と思ってしまいます。
体内のどこでヒアルロン酸に変化して、そのまま変化せずにヒアルロン酸の姿として必要なところに配分されるのでしょうね?
ちょっと僕には理解も直感も出来ませんね。
ただ、カネボウさんで目指している「肌の中でのヒアルロン酸合成を促進させる成分の開発」という線上にあるものなら、僕も可能性として大いに期待するところではありますが・・・。
そもそも、どこを探しても、
ヒトでのヒアルロン酸の経口摂取に関する有効性については信頼できるデータはありません。
むしろ、ヒアルロン酸の持つグリコシド結合は消化酵素アミラーゼによって分解されるため、経口摂取で組織に補充されるという考えは科学的にはあり得ないというのが定説です。
独立行政法人 国立健康・栄養研究所のデータベースでも、「関節痛を和らげる」「美肌効果がある」などと一般的に謳われる事項に関して、「安全性については、経口摂取には信頼できる充分なデータがない。」とされています。
また、注意点として、「特に妊娠中・授乳中の使用は避けるべき」とされており、但し、「外用および非経口で適切に使用する場合はおそらく安全と思われる。」と結ばれています。
僕の感触では、経皮摂取において「角質水分量の低下を抑制する」効果として締めくくるのが最も論理的であり、ごく自然に帰結される効果ではないかと考えます。
それだけでも大いにありがたいことではないでしょうか?
実は、僕にもサプリメント販売のオファーは多くあるのですが、どうも納得できるものがありませんから、全く販売していません。
全てのサプリに意味がないとは思っているわけではありませんが、やはり正解でしたね。
さて、博士の論文ですが、読まれても難しいですね。
僕も難しかったです。
ですから、僕たちが理解しておけばいいことをまとめておきたいと思います。
- ヒアルロン酸は分子量(糖鎖サイズ)により生理活性が大きく異なる
- ヒアルロン酸の分子量によって正反対の活性を発揮することがある
一般に高分子ヒアルロン酸は抗炎症的で免疫抑制効果を発揮し、低分子のヒアルロン酸はサイトカインの産生を促進するなどの活性を発揮する - あるサイズのヒアルロン酸オリゴ糖は、皮膚真皮まで浸透し、表皮および真皮における高分子ヒアルロン酸の産生を誘導する
- これを満足するオリゴ糖は4糖(HA4)である
- HA4は他のオリゴ糖(6糖・8糖・10糖等)には反応しない特異なレセプター(受容体)がある
- 細胞にとってのゆりかごである高分子ヒアルロン酸は、直接的に細胞を活き活きとさせる生理活性や、ストレス対応、アンチエイジング作用・抗炎症作用を示すことがヒト皮膚細胞培養実験などで証明済み
- ヒアルロン酸オリゴ糖はスキケアおよび肌の若返りに有効
- アンチエイジング素材は他にもありますが、成長因子などに起因するもので、癌の危険性をはらむものである
- 今般のヒアルロン酸オリゴ糖にはそのような作用がないことは、論文発表されている
- ヒアルロン酸オリゴ糖や低分子ヒアルロン酸の中には炎症を誘導・増悪するものがありますが(論文多数)、このヒアルロン酸オリゴ糖にはそのような作用がなく、逆に炎症を抑制します。
- このヒアルロン酸オリゴ糖にはスキンケア以外に医薬、オーラルケア、サプリメントなどへの応用が考えられる
もし、ヒアルロン酸事業の関係者の方でご興味があられましたら、合同会社ポイエーシス 浅利 晃 博士までお問い合わせされて下さい。
僕に問い合わされても困りますから、お間違えありませんように。
この製造は非常に難しく一般的にコストが高いのがネックのようですが、新たな製造法をも開発され、個別の戦略・戦術にあわせた研究開発および受託研究を含めたコンサルティングを行っていただけるようです。
「オリゴ糖」とは、ブドウ糖や果糖などの単糖が数単位結合した少糖のことです。
「ヒアルロン酸オリゴ糖(Hyaluronic Acid Oligosaccharide)」とは、ヒアルロン酸を原料とし,この糖鎖を切断して精製したもので、すなわち、低分子のヒアルロン酸と言えます。
今までに「真皮まで浸透するヒアルロン酸」などと謳われていた怪しげな世界が、エビデンスとともに本当の意味でその土俵に上がってきたということと解釈できます。
化粧品が気になる方にとって注目すべきは、「ヒアルロン酸:その構造と物性」の代謝の項にて説明されているように、「表皮の角質細胞はHA(ヒアルロン酸の略号)を活発に合成・分解するもう1つの例である。この場合のHAの半減期は驚くほど短く、1日以下である。」ことです。
すなわち、ヒアルロン酸は毎日のように活発に代謝され入れ替わっているということですね。
ですから、保湿化粧品としての価値としてだけなら表皮の角質層に潤いを与えることで十分な気もしますし、ほとんどの化粧品は角質層の潤いを謳っていることは正解と言えるでしょう。
真の「ヒアルロン酸の真皮への浸透」は、これから、この理論からステージに上がり始めた。
そう捉えるべきでしょうね。
世の中には、専門家でもなんでもないどこかの誰かが想像だけで流布していることが多いですね。
想像することは一向に構わないことなのですが、これを断定的に流布する姿勢はいただけません。
知識や科学はいつも暫定的なものですから・・。
僕たちは、こういったものに惑わされない知恵と知識に常に注意を払いたいものです。
真皮のヒアルロン酸は、表皮と違って分解はあまりせず、合成しては血中に放出するようですから、体全体との関係を僕ももっと勉強しなければ分からないところですね。
実は、もし自分が分子生物学を志すとすれば、自分ならどういう仮説を立てて研究課題を見出すだろうか?といったようなところを楽しむために勉強したいというのが本音なんですけれど、ともかくも勉強しながら、本ページを漸次充実させていきたいと思っています。
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