もうかれこれ10年前なのですが、高校教諭の南英世さんが『学力低下の背景にあるもの』という記事を書かれています。

南先生は高校の社会科関連の教科書の執筆にも携わられ、個人でも『学びなおすと政治・経済はおもしろい』という書籍も出されており、現在では高校指導教諭をされておられるようですが、なかなか面白い授業をされていた先生のようです。

そのタイトル通り、学力低下の背景を多面的に要因分析をされています。
当たり前と言えば当たり前の要因なのですが、ゆとり教育の功罪にばかり目が向かされがちなメディアの報道の中で、それぞれの保護者さんレベルにおいては、静かに見つめ直すことも子育てをする上では有意義なことではないかと感じます。

ちょうど、この記事と同じ頃、私もZ会の職員さんから「明らかに数学能力は落ちている」というご報告をいただきました。

Z会と言えば、私たちの頃は決してガリ勉ではない全国の精鋭たちのフォーラムという感さえありましたが、そのZ会でさえ、予想はしていたもののこのような現実があることにやはり驚きは隠せませんでした。

南先生の記事からかれこれ10年になろうとしていますが、この間、スマホの普及や単位制導入の増加やアルバイトの常態化によってますます勉強をしない傾向は加速されているのは確かでしょう。

子どもを逞しく賢く育てることができるのは親しかない

過保護

南先生は、学力低下の背景として次のような分析をされています。

  1. しつけ力低下の結果
  2. 子どもを誘惑する「遊び」が多すぎる
  3. 日本が豊かになった結果
  4. 若者の価値観の変化によるところ
  5. 少子化
  6. サービス精神の悪循環
  7. その他様々な社会全体の大きな変化

先ほど述べた

  • スマホの普及
  • 単位制導入の増加
  • アルバイトの常態化

は、2007年以降に顕著化したことであり、7.その他様々な社会全体の大きな変化に包含される要素ですが、今やそれぞれの項目として単独項目として列挙されるべきほどに重い影響を与えるに至っています。

いずれにせよ、親が直接関与できるのは1.の「しつけ」だけですから、それだけで他の数多ある要因の影響と闘わねばならないということになります。

異様なまでの過剰サービス

それはさておき、それぞれの項目は南先生のページをご一読いただくとして、
特筆すべきは「サービス精神の悪循環」というポイントです。

このこと、次のようなテクストとして述べられています。

生徒がいったん努力しなくなると、教師は何とか分からそうとして、より分かりやすく、より丁寧に教える。その結果、生徒はますます努力を怠るようになる。

教育産業では、どれだけ手取り足取り指導するかのPR合戦の様相を呈してる感さえ漂いますが、これほど教育の主旨と逆行する流れはありません。

的を射た手取り足取りならまだ救いはあるのですが、全くピントの外れた手取り足取りでもされようものなら、人格の欠損となって跳ね返ってくることにすらなり兼ねません。

社会全体が、子どもを育てるのではなく、まるで子どもを退化させることに躍起になっているかのようです。

もっと言えば、子どもを退化させることをサービスと称して、その対価で飯を食っているようなものです。

分かりやすいことや楽を出来るものを求める消費者にも責任はありますが、それを正しいことであるかのように流し続けるメディアや、人を育てることに対する矜持を放棄したような教育業者から子どもを守ってやることこそが「しつけ」としてできることではないかと考えます。

学力低下は、一人の人間にとっては枝葉末節の問題にすぎませんが、むしろ、これと相互的に補完関係にある全人的な成長という幹にとっても、これらの要因はとても重いものであるというところを忘れてはならないのではないでしょうか?

努力をしようとしない子に、いくら分かりやすく説明しても、これほど愚かなことはありません。
分かろうとする気持ちにまで引き上げて来ることの方が先決問題なのです。

その意味で、シンクロナイズドスイミングも井村雅代コーチの正しい認識があるからこそ選手が育っていると言えるのではないでしょうか?

今、習い事でも先生が厳しく叱ったり手足をびしっと叩いたりすると親からクレームが来たことを絶えず耳にしますが、これでは真っ当な人格など育つはずもありません。

中国の猛烈な勉強ぶりは、これはこれで別の問題があるとしても、これほど中高生が勉強をしなくなった国が真っ当な経済活動で先進国の地位を維持していくのは極めて困難であることは目に見えていることは確かでしょう。

学生の課題に対する応用がほとんど利かなくなっているのです。考える能力が落ちていることを懸念します。それが、今では、学校の先生が手取り足取り教える。例題をいっぱいこなして、暗記していく。自分なりの勉強の仕方が確立できない。

1970年頃は、医学部に入学する学生の入試の最高点よりも、工学部の学生の最高点の方が高いこともあった。その頃から比べると学生の数は半分になりました。かつて京大に入れなかったレベルの学生が入れるようになったのかもしれません。

長期的に見ると、京大工学生の学力は低下傾向ではあったのですが、ここに来て急に下がってきている印象があります。

京都大学 前副学長:大嶌 幸一郎 名誉教授(県立芦屋高校OB) 2008年談より引用

※余談になりますが、知り合いの京都大学に勤務する女性からも全く同様の感想を随分と前に聞いたことがあります。
「高卒の私でも呆れるようなことがある。もう、昔の京大生の面影はほとんど無い。」と…。

サブカルチャーや実体のない経済でやりくりできている間はいいでしょうが、自然や社会はそれほど甘いものではありませんから、余りにひ弱な体質にしておくと幸福が一瞬にして不幸に転ずることは大いにあり得ることでしょう。

古市憲寿氏の著作でもないのですが、『絶望の国の幸福な若者たち』という視点で、自分の子どもさんの将来を真剣に見つめてあげることも保護者にとっては重要な役目ではないでしょうか?


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京都大学工学部OB2名と大阪大学大学院工学科OBの3名、しかも全員ハードエンジニア出身(教師転身2名)で執筆していますから、商売人や学生上がりのような根拠のない、いい加減な甘言は書いていません。

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