さらば 燃えない脂肪の憂鬱 第2章:エネルギー代謝 | 3
生体エネルギー変換と熱エネルギーのこと
さて、前項で著者が抱いた疑問点についてお話しましょう。
ATPによってエネルギーが供給されるシステムは分かりました。
しかし、生物学に関するほとんどの文献では「エネルギー」としか記述されていません。
「ATPによって発生したエネルギーが身体活動に利用される」としか書いていません。
ATPから得られたエネルギーって一体何なの?
化学エネルギーによって出てくるものだから熱エネルギーなの?
ならば、何故それが筋肉や内臓を動かすの?
「褐色脂肪細胞の熱産生」の熱とは違うの?
あなたは分かりましたか?
著者は、さっぱり分かりませんでした。
でも、ありました。
やはり、生物学と物理学・化学の接点にあたる分野でテーマとして研究されています。
日本では山形大学の羽鳥研究室で研究されていました。
結論だけまとめておきますと、骨格筋の筋繊維に含まれるたんぱく質ミオシン及びアクチンが熱エネルギーを直接機械エネルギーに変換するメカニズムを担っているようです。
すなわち、ATPに結合したATP分解酵素(ATPase)ミオシンが、ATP→ADPへ分解される際に放出されたエネルギーによってコンフォーム(高次構造)の変化を起こし、それがアクチンに伝達されることにより、筋肉の収縮が行われるというモデルが現状で到達しているメカニズムの理解のようです。
そして、筋肉の収縮に利用される有効エネルギーはATPによって放出されたエネルギーの約40%(複数の数値が確認されましたが、目安認識として有効と判断)前後であり、残りは熱エネルギーとして放出されるというわけです。
熱エネルギーによって構造変化を引き起こすことが機械的なエネルギーへの変換の仕組みだったのです。
[参考サイト]
この数値は、熱機関としてはガソリンエンジンよりは効率が良く、火力発電所並みというところでしょうか。
[注記]
※熱エネルギーはその全てを有効に使うことはできません。(熱力学第二法則)
もちろん、まだまだ未解明な点は多いようですが、物理系の著者にも、科学的に納得させられるレベルであると感じましたから、現状では、この認識をしておこうと思います。
本項の主旨として、認識しておいていただきたいことは、
ATP から産生された熱エネルギーは、その約40%が機械的エネルギーとして筋収縮運動に利用され、残りは熱(廃熱)としてムダに放出される。
従って、熱は身体のどこからでも発生するものであり、決して、特定の器官だけで産生されているものではない。
何故、こんなことを言うのかと言いますと、本講座でも、「褐色脂肪細胞が身体で唯一の熱生産の専門器官である」という表現を採択していますが、何らかの活動や運動をすることで褐色脂肪細胞とは関係なく、あらゆる部位で熱は絶えず発生しているということと混同してほしくないからです。
何らかの活動をすることで発生する熱と褐色脂肪細胞が産生する熱とは性質がまったく違ったものなのです。
運動すると体が熱くなって汗を?きますよね。
運動するときは、運動に必要なエネルギーを盛んに生産しますが、全てが運動だけに使われてるわけではなく、廃熱としても沢山放出されるから体も熱くなってくるんです。
エネルギーを使うところには必ず熱放散が付きまといます。
運動をするということは、純粋に筋肉を動かすためだけにエネルギーを消費するだけでなく、無駄に熱を放出することも含めて消費されているということなんです。
ことのついでに、体内で発生する熱という現象を眺めておくと、次の2つが主な発生熱と言えます。
- 食物を消化・吸収・運搬する際に発生する熱産生=食餌誘発性体熱産生(diet induced thermogenesis;DIT)・・・食べていると体が熱くなるのを感じますね!あれです!
摂取エネルギーの約6~10%が熱として消費されます。
その比率は栄養素により異なり、たんぱく質:約20~30%、糖質:約5~10%、脂質:約5%以下と、たんぱく質が圧倒的に熱に変わる効率が高いようです。
その残りが、全身に分配され、脳活動・身体活動に使われるのです。 - 運動や生活活動によってエネルギーを消費した際に捨てられる廃熱放散
ATPから産生されたエネルギーの約40%が機械エネルギーとして消費され、残りの60%が廃熱として捨てられます。 - 体温を維持するための熱産生
一方、本講座で大きなテーマとなっている褐色脂肪細胞の熱産生は、運動をしなくても(ATPとは無関係に)内から発生されるということなんですね。
ここから考えられることは、褐色脂肪細胞の熱産生は体温維持の役割を果たしているのではないかということなんですね。
例えば、冬場にとても冷え込んだとき、私たちは身震いをします。
これは、筋肉を震わせることによって熱を産生し体温を上げようとする身体メカニズムの反応なんですね。
でも、いつまでも身震いをしているわけではありません。
実は、身震いでは大した熱産生はできないというのが定説となっています。
まぁ、寒さによる体温低下を応急的に補うための自然な振る舞いなんでしょう。
ですから、身震いするのと併せて、震えずに熱を産生する機構が働き出すわけです。
これを「非ふるえ熱産生」と呼び、褐色脂肪細胞による熱産生だというわけです。
かくして、体内で発生する熱として3番目の要素が浮かび上がります。
ですから、「熱」という視座から見てエネルギーを消費する方法を眺めてみると、
- 食餌誘発性体熱産生DITを多くする。
- 運動や生活活動による熱産生を多くする。
- 体温維持メカニズムを利用して熱放散をする。・・・褐色脂肪細胞
ⅰ)は食べる量に比例して熱を産生することですから、シェイプアップとしては、あまり意味がある要素とは言えません。
ⅲ)は、第1章|9でご紹介した褐色脂肪細胞の活性化手法というアプローチに対応します。
なまくらな人にはとても魅力的に映るわけですが、それでも、第2章|1で述べたように、基本はⅱ)の運動や生活活動のエネルギーを消費して廃熱を放出することが、シェイプアップの基本であることに変わりはないことを認識しておくべきなのです。
多くのダイエットが失敗するのは、エネルギー消費の側面から見ると、個別には効果が期待される手法であっても、基本のⅱ)を常に意識的に心がけていないことによって、下手すれば帳消しにしてしまっている場合さえあるということによるのです。
褐色脂肪細胞へのアプローチにいくら精進しても、基本のⅱ)を怠っていれば単に時間を浪費するだけに終わります。
ATP(アデノシン三リン酸)って何やねん?~無酸素・有酸素への流れ
本講座は、引き締まった美しい体を作るシェイプアップ(一般的に「ダイエット」と呼ばれているもの)に関する正しい理論と手法を、誰にでも分かりやすく紐解くことを目的としています。
ご存知の方は少ないかもしれないWとB(読まれていく内に正体を現します)にスポットを当て、世にある多くのダイエット手法とは代謝的に全く別の根拠によるアプローチをご紹介しますが、ダイエットの本道は【過剰にならない一定の糖質をジャストインタイムで摂取する】ということ以上でも以下でもないということをバラシておきましょう。
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