原発性胆汁性肝硬変(PBC)

早いもので、あなたが逝ってから今日は三七日(みなのか)になりますね。
お変わりなく修行の旅に励まれているでしょうか?
今日は、文珠菩薩様にお会いする日ですが、どのような具合でしょうか?

決して病院に行こうとはしなかったあなたが、目の不快から初めて目医者にかかると、
自ら言ったのは、一昨年の梅雨明け頃でしたね。
僕は、てっきり、あなたは一生医者にかからず終われるものと思い込んでいましたよ。

思えば、あのときから全てに繋がる伏線が出来つつあったのですね。
あなたが、不思議な病名=原発性胆汁性肝硬変(PBC)を付けられた後、僕は、目の疾患も
重度な狭偶角や重度な白内障以上に、角膜自体が弱いと診断されていた意味が分かったのです。
もっともっと奥深く、肝臓に起因していたものだったのでしょうね。

今年、やっとの思いで介護タクシーを呼んで病院に連れて行くことができたたと思ったら、
病院知らずのあなたは、最初のレントゲン検査で早くも拒否反応を起こしてしまいましたね。

あのときは、左大腿部の痛みで既に歩けず、その上、わき腹もかなり痛んでましたから、
きっと、男3人がかりで姿勢を矯正されることが辛くて耐え難かったのでしょうね。

周囲を憚らず泣きじゃくり、僕にその気持ちをぶつけるあなたを見て、レントゲンも撮れないのかと、僕は心中から落胆し、腹を立てたのでした。
そして、あなたが精神的に落ち着いてからしか出直せないなと思っていました。

その後、ますます右わき腹辺りの痛みが激しくなるあなたを何とか入院させねばと思っていた中、
あなたも耐え難かったのでしょう、最寄の開業医に往診に来てもらうことを了承しましたね。
あなたは知らなかったでしょうが、あのとき、僕は、救急入院を前提として根回ししていたのですよ。

救急車で搬送し、やっとやっとこぎつけた入院でした。

金曜日午後遅くからの入院でしたから、週明けから様々な検査が始まりましたね。
検査に行くごとに、僕は何事もなければといつも心配していました。
案の定、いろいろとエピソードを作ってくれましたね。

ともかくも、検査が進む内に、肝臓の数値がとにかく悪いため、主治医がすぐに肝臓専門医に
変わりましたね。とても、良い先生に巡り会えたと思いますよ。
その主治医は、目に黄疸が出ていることを確認し、間違いなく肝臓疾患と言ったのです。

一人で入院することが出来ないあなたに、僕は毎日付き添いをする覚悟を決めました。
時間の感覚も危うくなっていたあなたは、所用のために僕が2時間ほど家に帰っても、
それが耐えられないかのようでした。

入院した次の日、僕の一番気に障ることを言い出したあなたに、僕は烈火のように怒鳴り散らし、
その正誤をあなたの親友に尋ねてみろと携帯を通じて一部始終をその親友に聞かせたのです。
僕が、初めてあなたのことを「おまえ」と呼んでしまった日でした。
病室には、泣きじゃくるあなたと同じように思わず泣きじゃくる僕がありました。

年齢や医者にかかることが初めてということで肝生検はできないという判断の中、胸水や手足の
浮腫の原因が、低アルブミン血症であることも分かり、薬と点滴による治療が進み、まぁ、薬というものを飲んだことのないあなたのデータはみるみる良化してきましたね。(下図)

このとき、僕はしばらくの間なら全ての時間を潰しても構わないと思ったのです。


血中アルブミン量推移

■低アルブミン血症

血中のアルブミンが極度に不足すると、膠質浸透圧の低下を来たし、水分が間質に流出し、腹水や手足の浮腫として現れる。

アルブミンは肝臓で合成されるタンパクで、その血中濃度は、健常人での基準値は約3~5[g/dl]とのことですから、左図における入院当初の値が異様に低いことが分かります。

■アルブミン

血液中の血清に最も多く含まれている蛋白質であり、食物から摂取したたんぱく質を元に肝臓のみで合成され、腎臓でろ過されます。
アルブミンは体の水を血管内に引っ張ってくる働き(浸透圧)をしますので、不足すると、体に水が溜まり、腹水や浮腫みを引き起こします。
従って、不足の場合は、利尿剤を使うことで、体の水分を血液の中に引っ張り込んでおしっこで排出させるという治療を行います。


そして、検査が進む中、下された病名が原発性胆汁性肝硬変(PBC)。
生物学にも病理学にも疎い僕は、「肝硬変」という言葉を聞き取るのがやっとでした。
「なんや~それ??」

そして、この病気は国の助成の対象になるので、必要書類を保健所で貰ってくるようにとのこと。
どうやら、この病気の原因はまだ不明で、根本的な治療法が無いために【特定疾患】とやらに指定されていたのでした。


■原発性胆汁性肝硬変(PBC)とは?

脂肪を消化する大切な働きを担う胆汁は、肝細胞によって作られ、(肝内胆管)を経て、だんだんと大きな胆管に集合し、一旦胆嚢内に貯留されます。
その後、食物として摂取した脂肪分が刺激となり、十二指腸から腸内へ排出されます。

ところが、原発性胆汁性肝硬変(PBC)になると、肝内胆管が破壊されるため、胆汁が肝臓内に
停滞。胆汁中の成分であるビリルビンが血管内に逆流し、全身の組織に黄色いビリルビンが沈着し黄疸が生じます。
炎症と停滞した胆汁により次第に肝細胞が破壊されて線維に置換され、肝硬変へと進行。

原因は分かっていないようですが、自己免疫反応が関与していることは明らかになってきているようです。


そうこうしている内に、数値も快調に良化し、肋骨微細骨折と診断されたわき腹の痛みすらも、
時間とともに自然に消えていきましたね。

最初に出ていた症状である、左足の痛みもリハビリを開始する頃には知らぬ間に無くなり、
食養生をして肝臓をこれ以上悪くさせないようにすれば、何の問題もない筈でした・・・。
何より、あなたに希望が戻ってきたかのように見えました。

そして、家に帰りたがるあなたを慮って、主治医も退院を了承してくれたので、僕も、これで一安心、
もう戻ってくることはないだろうと1ヶ月の入院生活を終えたのでした。
わずか10日ばかり後の検診で、別の数値が異様に悪化するなどとは夢にも思わず・・・。

家に帰ったあなたは、どうも自分の家ではなく、僕の家に世話になっていると思っていたようです。
やはり、肝性脳症も加わった認知にとって、環境の変化は、より一層記憶を惑わせたのでしょうね。
でも、肝臓さえ現状維持を保てれば、それで御の字だと僕は思っていました。

でも、あなたは、末期ではなく中期とは言え、見事に原発性胆汁性肝硬変(PBC)のシナリオ通りのストーリーが、既に佳境に入っていたのでした。

思え返せば、いつ頃からか異様に背中を痒がって、僕も何度も掻かされたものですが、この病気のほんの序章だったのですね。
僕は、てっきり、老人によくある、肌の水分量の減少や新陳代謝の低下による皮膚乾燥だとばかり思って、ベルマン化粧品のホームゲルクリームを塗ってあげたものでした。

もっと言えば、危機一髪での白内障手術後、1年経たない内の右目の水疱性角膜症。
そして、異様な背中の痒み、手足の浮腫み、左臀部の痛み、右わき腹辺りの痛み、こむら返り。
全ては結果的に知り得たことですが、このときすでに、黄疸、腹水貯留、肝性骨粗鬆症,肝性脳症を伴った完全なる肝不全という状態まで進行していたのでした。

そして、退院後初めての検診日がやって来ましたね。
このとき、あなたは車椅子ではなく、杖をつきながら自分で歩き、診察室へも歩いて入ったのです。

なのに、検査結果は、ASTとALTの値がPBCでは考えられないほど異常に増加。(下図)
自宅では目に見えて悪化している様子もなかったのに・・・。
あなたはもちろん僕にとっても、まさに青天の霹靂でしたね。


AST,ALT,γ-GTP量推移

■ASTとALT

AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)は肝細胞をはじめとして赤血球、心筋、骨格筋などに分布するため、肝障害の程度の指標として利用される。
但し、肝臓以外の障害(心筋梗塞や溶血性貧血)でも上昇しうる。

ALT(アラニントランスアミナーゼ)は、肝細胞への分布が圧倒的に多いため、肝障害の程度の指標として利用される。
肝細胞の破壊がALT濃度の上昇をもたらすため、肝細胞の破壊度の指標となる。


退院後、わずか10日余りの間。
確かに、こむら返りが毎日決まって夜の8時前後に起こるようになって、僕も往生してはいましたが、食欲は無いながらもリビングに来て食事も出来ていたし、それ以外の異常に気づく事はありませんでした。

塩分・たん白制限の面で、やはり、僕の食事が甘かったのか?
そんなことを考えましたが、食事でここまで悪くはならないと言われたのです。
そして、翌日入院となり、その結果は、自己免疫性肝炎(AIH)2型という、これまた特定疾患の病が隠れていたという結果でした。

本来自分の身を守るための免疫が肝臓の細胞を攻撃するというのです。
その結果、肝臓の炎症を起こしているというのです。

-2011年4月28日-


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