拝啓 母上様 ~愛別離苦と五蘊盛苦のただ中で~

早いもので、あなたが逝ってから今日は二七日(ふたなのか)になりますね。
お変わりなく修行の旅に励まれているでしょうか?
今日は、釈迦如来様にお会いする日ですが、どのような具合でしょうか?

思い返せば、あなたの最後の入院になってしまった時の病室番号が404。
夜が明けて部屋を移された瞬間には、「今時、こんな番号の病室ありなのか?」
と思ってしまったのですが、冷静に考えると、仏教で「4」は頻出の数字。

そして、あなたが逝った日(立ち日)の4月9日は、四十九日を見守る薬師如来
に縁の数字の並びとも言えるのですね。
そして、何より「願わくば 花の下にて 春死なん」のまさに桜満開の日でしたよね。

とは言っても、今年に入って発覚した原発性胆汁性肝硬変(PBC)も良好で推移
していたはずなのに、こんなに急に旅立ってしまうとは思いもよりませんでした。
PBCという奴は実に意地悪な奴で、これに伴って起こる症状に次々とやられてしまいましたね。

僕は、こんなことになるとは思ってもみなかった最後の頃に、あなたに随分と酷い
ことを言ってしまいました。
あなたの寿命を縮めたのは僕のせいかもしれません。
あなたが逝った後、そのことが頭から離れず、今も慙愧の念に苛まれています。

あの日の早朝、僕は、一晩中同じ状態で推移していることに一縷の望みを託していました。
そして、椅子に座ってあなたの背中をさすりながら、ただ「ごめんな、ごめんな」と詫びるや
否や、あなたはそれらの言葉を待っていたかのように、わずか15分ほどの間に急速に最後
の命の灯火を消していきましたね。

我が家の庭桜が満開の日に逝ったことがせめてもの救いと自分に言い聞かせたあの日。
あの日からいまだに花冷えの日々が続いているのは、あなたの怒りでしょうか?
それとも、あなたの悲しみでしょうか?

僕は、幼い頃の父との別れの時とは違って、あなたの死に直面しても、決して取り乱さず
泣くこともなく冷静に受け止めることができると信じていたのに、決してそんなことは
なかったのは、ひとえにあなたの最後を納得のいくように締めくくってあげられなかった
僕の度量の小ささを悔いる心によるのではないかという気がしています。

今年1月半ばより4回目の入院。
3回目の坐骨の痛みによる入院頃から、かなり弱りだしたことで、僕の体力も相当限界に
来ていたこともあり、嫌味なことを言われたことに腹を立て、相当に酷い言葉をあなたに
浴びせてしまいました。

認知症は病気だと言い聞かせていながらも、肝臓のしんどさのストレスから来る八つ当たり
だと言い聞かせながらも、弱った人間に言うべきではない言葉を吐いてしまった自分。
自宅で夜中に何度も起こされて、起き上がる気力も体力も失せて放置してしまったことも
数度ある自分。

やっと気を取り直して起き上がると、ベッドから降りてへたり込んでいたり、ベッドの柵に
頭を乗っけて身動きできないでいるあなたがありました。
さぞ寒かっただろうに、さぞ苦しかっただろうにと一挙に自分の犯した罪の深さに腹を立てました。

四十九日のお供えをするために、ご飯を炊き、味噌汁を作っていると、ひとりでに涙が出てきます。 いつも僕が作った食事を美味しいと食べてくれていたのに、もう食べてくれることもない。
こうして、ページを作っている今も、階下には、もうあなたは居ない。
今生で、もう遭えないということが、これほど辛いことだとは思わなかったのです。

我昔所造諸悪業 皆由無始貧瞋癡 従身語意之所生 一切我今皆懺悔
あなたが、般若心経の前に時々唱えていた懺悔。
それは、僕にそのまま跳ね返ってくる経文として、今心に染み入るばかりです。

-2011年4月21日-


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