プチ機械設計者講座003「加工方法の基礎:削るの?削らないの?」

削るとは材料の一部を犠牲にして精度を出す作業

講座002までは、ともかく鋼板や平板に限って、材料のサイズを見てきました。

さて、材料だけでは何の用も足しませんね。
これら材料から部品を作り、これを組み合わせて、機械の形になっていくわけです。
それぞれの部品が、目的を持った形として設計されていきます。

CADオペレータの皆さんには、それぞれの部品が【どうやって所定の形にされていくのか】の概要を知っておくことは、単なるオペレータで終わらないために、とても大切なことになります。

「どんな加工をして部品の形を作り上げるか?」
「削るの?削らないの?」という問題も、その中の一つです。

「削るの?削らないの?」に行く前に、まず、
この【加工】について、最低限のの基本的な知識を持っていなければなりません。


加工】は、大きく分けて、
切削加工(切断も含めましょう)
溶接加工
プレス加工

の3つに分けられます。

講座001で、SPCCという素材について説明しました。
このSPCCで切削加工以外の加工について、先にお話しておきましょう。
厚みは、・・・1.2mm,1.6mm,2.3mm,3.2mmがありましたね。
薄っぺらい鉄板です。

そして、SPCCは曲げ加工をして使うことが多いと説明しました。
この「曲げ加工」は一般的に板金加工と呼ばれます。

皆さんは、自動車の修理の時なんかでよく耳にされるかと思いますが、「板金加工」と言っても、やはり自動車や建築や機械、それぞれの業界で若干ニュアンスが違います。
この講座は、あくまで機械業界での「板金加工」です

上で大別した3つの中には入っていませんね。
板金加工」と呼んだ時、主にはプレス加工に入りますが、当然、つなぎ合わせる溶接も大きなウエイトを占めて来ますし、ドリルで穴だって開けることも多いです。

小学校でサイコロの展開図なんかよくやりましたね。
あれですよ。

折り曲げてサイコロの形の箱が出来ますね。
セロテープで各辺を貼り付ければOKです。
セロテープで貼ることが溶接に相当するわけですね。

そして、さいころの目を書くのではなく、穴を開けて表現したいなら、ドリルあるいはパンチみたいに打ち抜いて穴を開けることが必要だと言うわけです。

だから、板金加工」という場合は、一連の作業が全て入っています!
板金加工」=「プレス加工」ではありませんよ。

板金加工」と言ったときは、
薄い板(鉄板に限らない)を切ったり(シャーリングと言います)、
曲げたり(曲げ加工が一般的、ベンダー加工とも言います)、
穴を開けたり(打ち抜き=パンチング加工穴あけ加工)、
つなぎあわせる(溶接加工)など一連の作業のことを全て含みます

プレス加工」とは、その中で曲げ加工打ち抜き加工のことを指します。
このプレス後に付随する加工のこと全体を含めて「板金加工」と考えて頂ければ結構です。

このプレス加工というのは、曲げ加工打ち抜き加工だけでもありません。
深絞り加工というものもありますが、とりあえず今はこの2つで結構です。
もっと言えば、曲げ加工だけ視野に入れておけば結構です。
プレス加工は、学術的な言い方をすると、材料に【塑性変形をさせる加工】のことになます。

興味のある方は、
「塑性変形とは?」で調べてみて下さいね。

さて、機械屋さんとして一番頻繁にお目にかかるのは、1枚の薄板を単にL字型に曲げる部品です。
曲げの中でも基本の基本です。

さて、この曲げ加工でL字型に曲げた部品の精度を考えてみましょう。
見た目には直角にきれいに曲がっています。

この片面をロボットにハンドとして固定し、他の面に注射針を固定して、あるものにまっすぐに突き刺して行かねばならないとします。
寸分違わず、決められたポイントへ真下に突き刺さねばなりません。

さて、みなさん、自信がありますか?

まず、チップの真上にきちっと注射針があるだろうか?
押し込んでいったときに寸分違わずまっすぐに刺さっていくだろうか?

なんだか不安ですね。

感覚的にそう思ってしまいますよね。
でも、その通りなのです。

折り曲げただけのものには、そんなに繊細なことを要求されるのはちと酷なのです。
だいたい、誰かが引っ掛けただけで、ちょっと歪むかもしれない心もとなさがあります。

だから、こういう用途には向かない。
「もうちょっと大雑把なことに使ってよ」というわけです。

では次に、2枚の鉄板を溶接して同じようなL字型の部品を作ったとしましょう。

これはどうですか?
同じく、限りなく直角かと問われると、こちらも心もとないですね。

だいたい素材自体が、本当にまっすぐか?分かったものではありません。


ことのついでに、頭に叩き込んで下さい。
素材自体は、寸法も真っ直ぐ度も信頼できないアバウトなものである!
ということを

そんな素材を「確実に直角にセットしたから、さあ溶接にかかるぞ!」と誰が言えるでしょうか?

それよりも何よりも、溶接すると言うことは大きな熱が加わることです。

確実に直角にセットしたと言い張る人が居ても、溶接したら、あら大変!曲がっちゃた。

ここでも、ことのついでに、頭に叩き込んで下さい。
溶接のように、熱を加える加工それだけでは、伸びる、歪む!
ということを

すなわち、プレス加工溶接加工は、精度は保証されないということです。

もちろん、加工順序、加工前の前処理、曲げるために使う金型・金具に工夫が凝らされますので、目で見ただけで明らかに直角でないような加工ではありませんよ。

これらプレス加工溶接加工だけでは、目的とするものを取り付けて、正確な位置を出したい場合には難しいということです。

従って、1mmぐらいズレたって用を足す場合とかズレテいても、取り付け方で充分吸収できるとかの場合はこれで充分なわけです。

あるいは、タンクとか炉とかそれ自体動くことを目的としないような設備はこれで充分ですね。

何かを貯めておくとか、そこで加熱するための部屋だとか、寸法が1mm違おうが2mm違おうが別にたいした問題ではありません。

設計図で3000mmの直径のタンクがあるとします。
3002mmだったらダメだということはまずありません。
実際、数mm違っていることの方がほとんどです。

もちろん、取り付ける他の部品と合わないのは困りますよ・・・。

一方、切削加工をするということは、

  • 正確な寸法に仕上がります。
  • 重要な部分には許容範囲(公差と呼びます)を指示することによって、非常に精密な精度で寸法が仕上がります。

ここで、違う方向から眺めてみましょう!

溶接加工プレス加工(打ち抜き以外)は、屑が出ません。
これに比べて、切削加工は屑が出ます。

何を意味するでしょう?

屑を出すということは、正確な規準を作り、その規準に対して正確な寸法や正確な方向性(直角度とか平行度とか)を獲得するためなのですね。

屑を出すのと引換えに、寸法や位置の確さを手に入れたわけです。
自然の理というのは、決して一方的な得を許してはくれないとも言えるでしょう。

では、「削るの?削らないの?」はどこで決めるの?

今のところ、次のように理解しておいて頂ければよいでしょう。

ちょっと変わった観点からまとめておきます。

<もし、削らなかったら・・・>

  • 精密を要する機械でも、削らない部品で機械が出来ないわけではありません。
  • 削らない部品で組み立てていくと、目的のものの位置が設計図とかなりずれていますが、 別に用を成さないわけではありません。
  • 設計図通りの位置にするために組立てることは当然できますが、いろんな取付部分を 調整しては測り、また調整しては測りを繰り返さして、目的の位置にセットして いかねばならないという条件がつきます。
    時には調整するために超薄片の板をかまして(シムと言います)みなければならないこともあります。
    ここで、組立の職人さんは怒ります。
  • このように組み立てて稼動したとしましょう。
    何かトラブルがあったり、メンテナンスや寿命で部品を取り替えなくちゃならない。
    取り替えて、元通りの位置通りに復元しなくてはならない。
    組立ての職人さん、またまた怒ります。

普通、こんな説明の仕方はしませんが、

  • 荒っぽい機械はあまり削らない
  • 精密な機械は削ることが常識

という一般的な言葉の裏に隠れる事情として頭にいれておいて頂ければよいかと思います。

私自身としては、
一度バラして組み立て直す場合に、寸法や位置にそれほどの復元性を要求されない部分や機械は、極力削らない方がコストが安価で済むということだと考えています。


CADソフトは自分が使いやすいとか気に入ったというだけでは選べませんよね。
クライアントがあってこその仕事ですから、クライアントの機種に合わせることが第一となります。

基本的には、建築・土木系も機械系も、AutoCadもしくはAutoCad LTは必修科目の領域でしょう。
建築・土木系では無料のJw-cadを使うところも多いと聞きましたが、やはり大手をクライアントとして持つ場合は、そういうわけにはいかないでしょうね。

機械系の場合は、昔は使用ソフトも本当にバラバラで分散していましたね。
でも、徐々にAutoCadにシフトしてきている傾向が強いように見受けられます。
その中で、フォトロン社の図脳Rapidを使っているところは多いのではないでしょうか?
僕も、中堅の会社のある部署に出向していたときに使わせてもらいました。

これから仕事を探す場合も、クライアントを探す場合も、AutoCadの経験があれば、門戸が広がりますね。
機械系も、やはり使い方に慣れると最も使いやすいのがAutoCadだと実感します。
僕も、最後の方はAutoCad LTしか使いませんでしたからね・・。

ページの先頭へ