■第3章:栄養代謝(糖質代謝と脂肪代謝)

3.インスリンのことを知っておく

インスリンは、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞から分泌され、肝臓に送られた後、血中に入り骨格筋や脂肪細胞など全身の組織を巡っています。

血流に乗って何をしているのかと言えば、脂肪を監視しているわけではありません。
糖尿病でおなじみのインスリンですから、もうお分かりですね。

脂肪ではなく血糖値、即ち血液中の糖分の濃度を感知しながら、血糖値が高いと各細胞がたくさん糖を取り込んでくれるような指令を伝達して血糖値を下げます。

すなわち、血中の血糖値を下げる因子として重要な役割を担っています。
私たちの体で、血中の血糖値を下げる物質はインスリン1種類しかありません。

血糖値を下げるということは、具体的には、

ⅰ)肝臓に糖を取り込んでグリコーゲンとして貯蔵させます。(肝グリコーゲン)
ⅱ)筋肉に糖を取り込んでグリコーゲンとして貯蔵させます。(筋グリコーゲン)

これだけでは大したエネルギー量は貯蔵できません。

ⅲ)そこで、脂肪細胞に糖を取り込んで脂肪合成をさせ、中性脂肪として貯蔵させます。

ここで注意です。

ⅰ)とⅱ)では少々メカニズムが違います。
実は、ⅰ)の肝臓での糖取り込みは、インスリンの作用を受けません。

その理由を理解するために、先にⅱ)の仕組みをご説明しましょう。

ⅱ)の仕組みは、インスリンの分泌情報が信号として伝達されることにより、筋肉脂肪細胞にあるGLUT4と呼ばれる輸送担体(トランスポーター;運び屋の意)が細胞表面に現れ、グルコースをカリウムとともに受け入れるのです。
ついでに申し添えておきますと、GLUT4は運動をしたときも細胞表面に顔を出します。

ところが、ⅰ)の肝臓での糖取り込みは、GLUT2と呼ばれる運び屋が担当しており、こちらはGLUT4のように普段隠れているわけではなく、常時スタンバイしていますので、インスリンの作用によって作用されるものではないのです。
ついでのついでに申し添えておきますと、後で述べる脂肪細胞もGLUT4が運び屋なんです。

ですから、肝臓の場合、インスリンによって糖の取り込み自体がそれほど増えるわけではなく、インスリンが糖の放出や糖新生を抑制することから、自ずと貯蔵しなくちゃという指令と受け取りグリコーゲンへの合成が促進されるというメカニズムなんです。

肝細胞の糖運び屋GLUT2は常時表面に存在し、インスリンに依存せずに糖を取り込みますから、インスリンの分泌によって糖の取り込みが盛んになるのは筋肉なんですね。

糖運び屋が、ちょっと違うということを覚えておいてください。

例えば、食事を摂った後は、消化吸収によって、血中には糖質・脂肪の栄養分が溢れます。
当然、血糖値が上がりますから、糖分を筋肉に取り込ませるようにインスリンが分泌されます。

この取り込み作業は血糖値に比例して行われます。
インスリンは糖の取り込み口の開閉量の制御を司っていると考えれば分かりやすいですね。
脂肪合成を促進すると同時に、脂肪分解を抑制するブレーキの役目を果たします。

ですから、インスリンが分泌されなかったり機能が不全になると、GLUT4は指令が来ないので隠れっぱなしになり、筋肉は血中のグルコースを取り込むことをしません。

ダイエットを目指すあなたには、インスリンの分泌さえ抑制すれば、中性脂肪が合成されないので嬉しいことに見えますが、筋肉のエネルギー源となるグリコーゲンも、不足したときに補うべき中性脂肪も孤立してしまうということになってしまいます。

血糖値を下げる物質はインスリンしかないため、血液中のグルコースは満杯になるばかりで、各器官は欲しいのに貰えない状況に陥ってしまい、誰も取り込んでくれないで行き場を失った糖は尿として下りるしかないことになってしまいます。

すなわち、これが糖尿病です。
低インスリンダイエット」の危なげさが見え隠れしますね。

あなたは糖尿病になりたいでしょうか?

脂肪が合成される方に働くホルモンだから敵というわけではなく、こいつが居ないと糖尿病への道まっしぐらになってしまいます。
インスリンは、血糖値を一定に保ち、代謝を行おうとする巧妙な仕組みの立役者なのです。

糖尿病(2型糖尿病)になってしまった人が、運動しなければならないのは、運動することによって、糖運び屋のGLUT4が出てくる仕組みにを利用して血糖値を下げ、ひいては仕組み自体の回復に努めるためだったのです。

インスリン分泌が機能不全になっても、運動することで糖取り込みのスイッチが入るような仕組み、ハードが壊れてもソフトで代替し修復のリハビリすら可能な仕組みが作られていたことに感謝せねばなりませんね。

単にダイエット目的のあなたの場合は、逆方向に作用する奴なのに「抑えたらダメ!」とまで言われると、ダイエットにとってはどうでもいい無関係なことのように思いますよね。

でも、特にメタボの領域に入っているあなたなら、この後に記します「インスリン抵抗性」が強くなっている可能性が大ですので、運動との関係性を学んでおくべきなんです。

さて、まだインスリンが正常に機能しているあなたにとっては、取り込まされた糖質は使わないことには、中性脂肪として溜まる一方になるということになりますね。
入って来た量だけ使わなかったから、今、ダイエットの必要に迫られているんですから。

さて、ダイエットできずに、どんどん肥満が進んでおられる場合は、このインスリンが正常に分泌されているにもかかわらず、正常に機能しなくなってくる可能性が高まります。
(肥満ではないのにダイエットしようとしている方に関しては、話は別です)

すなわち、「インスリン抵抗性」とは、インスリンが効きにくくなり、その機能が低下し、糖が十分に消費されずに血液中に増えて高血糖になってしまう状態です。
そして、糖尿病・高脂血症・高血圧症などの生活習慣病の指標とされています。

このメカニズムは、過剰な栄養が継続的に摂取され脂肪細胞の脂肪滴が肥大化してくると、アディポネクチンというインスリンの働きを向上させる物質が出なくなり、逆にインスリンの働きを悪くする物質(TNA-α etc)が分泌されることにあるようです。

アディポネクチンは、第2章でも、AMPキナーゼを活性化し、糖質取り込みと脂肪燃焼を促進するホルモンとしてご紹介しましたね。

脂肪にしてみれば、TNA-α etcは、これ以上溜め込まないための指令としてありがたいことになるわけですが、恒常的にインスリン本来の機能を奪われることが、将来に大きな犠牲を伴うことになるのは当然と言えば当然のことですね。

「所謂メタボとはインスリン抵抗性が強まった状態」だと認識していただきたいのです。

さて、摂取する脂肪の質の違いによってインスリン抵抗性の発症は大きく異なるようです。(国立健康・栄養研究所)

著者が、現代における肥満の食事面での大きな原因であると直感しているジャンクフードやファーストフードの摂取増加は、インスリン抵抗性を強くするという面での科学的な裏づけが厳としてありました。

やはり、ハンバーガーなどのファーストフードに含まれる「飽和脂肪酸」は、このインスリン抵抗性をもたらす大きな原因であることが分かっているのですね。

また、油脂については大量のリノール酸がインスリン抵抗性を高めやすく、魚油は逆にインスリン抵抗性を改善するという結果が得られています。

リノール酸は紅花油やコーン油などの植物油に多く含まれますので、これらの摂りすぎには注意しなければなりません。

次に、この後の、「脂肪の吸収」のところでお分かりいただけますが、油は出来る限り中鎖脂肪酸か短鎖脂肪酸のものを摂るのがよいということも、今、頭に入れておいてください。
魚の油が良いといわれる所以はこういう根拠に基づくものです。

最後でご紹介する、ミトコンドリアの権威 太田成夫博士の「体が若くなる技術」では、「食用油は中鎖脂肪酸を使いなさい」と明言されています。

最初に少しお話しましたように、著者の知り合いは、結婚して肉から魚中心の食生活になった途端に徐々にスリムになり大きく減量、シェイプアップしました。
それも、スポーツ系のがっしりした体格を損なうことなくです。

たとえ脂肪摂取量は変えなくても、油の種類を変えることで、かなりのシェイプアップ効果は見込めるという実証は注目に値しますね。

ここでも、再び「低インスリンダイエット」を思い起こされたかもしれません。
が、インスリン抵抗性を改善する食事と「低インスリンダイエット」の食事とは全く真逆の思想であることを知っておいてくださいね。

低インスリンダイエット」は、インスリン分泌を抑える食品を取ることで血糖値を常に低く保ち、糖の取り込みを極力減らし、脂肪合成をさせまいとするダイエット流儀ですね。
すなわち、インスリンが正常に機能しているにもかかわらず、使わせないということ。

いろいろ危険性は書かれていますから、ご自身でまとめられると勉強になると思います。
著者の方からは、いたって簡単なことを書かせていただきます。

ダイエットは、体が処理している自然の秩序を損なわない範囲で処理する方法の中にこそあり、自然の秩序を意図的に変える流儀は何にしろ身体に必ず負の影響をもたらす。


本講座は、引き締まった美しい体を作るシェイプアップ(一般的に「ダイエット」と呼ばれているもの)に関する正しい理論と手法を、誰にでも分かりやすく紐解くことを目的としています。

ご存知の方は少ないかもしれないWとB(読まれていく内に正体を現します)にスポットを当て、世にある多くのダイエット手法とは代謝的に全く別の根拠によるアプローチをご紹介しますが、ダイエットの本道は【過剰にならない一定の糖質をジャストインタイムで摂取する】ということ以上でも以下でもないということをバラシておきましょう。

誰にでも理解しやすいようにまとめてはいますが、一方で、医学系・看護系の大学新入生レベルには今後の勉強の基本予習・イメージ作りとしても有益ではないかと思います。